アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)といった疾患に対する医薬品の開発に使われてきた従来のアプローチは、現時点ではあまり多くの成果をあげていない。アリス・チャンは新しい方法を試している。チャンの経営するヴァージ・ゲノミクス(Verge Genomics)では、人工知能(AI)を使って有望な化合物を特定し、患者や研究室での試験で得られた質の高いデータによってAIのアルゴリズムを改良している。チャンはこの方法が、難治性の神経変性疾患に対する治療法を探す上で、従来より効果的なものになることを願っている。
チャンがこの斬新な手法の着想を得たのは、がんにおいて数百もの遺伝子がどのように相互作用するかについて、ある研究者が詳しく語った講演を聞いた時だった。彼女はそのとき、この「ネットワーク」的なアプローチを神経変性疾患に適用できないかと考えた。「計算生物学は、がんについて非常に多くの見識を人々に与えてきました。脳研究はそれに比べて10年ほど遅れています」。
ヴァージ・ゲノミクスが開発している機械学習モデルは、疾患ネットワーク内にあるカギとなる遺伝子を特定し、どの化合物がそれらの活性を抑える可能性があるかを予測するというものだ。ヴァージ・ゲノミクスはこれらの化合物を、動物モデルと、患者由来の幹細胞から成長させた神経を使って試験する。そこから得られた結果を機械学習モデルに取り込んで、モデルをさらに洗練するという具合だ。チャンによると、ヴァージがALS治療薬の候補として見つけた7つの化合物が、患者の体外で培養した神経細胞における細胞死を遅らせたという。
(キャサリン・ブルザック)
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著者 | MIT Technology Review編集部 [MIT Technology Review Editors] |