イランで育ったニキ・バヤトは、緑内障の父を持つ。父が他の健康上の問題から眼科手術を受けられなかった経験から、病気で苦しむ人々を自身の工学的素質を生かして助けたいと絶えず考えていた。バヤトはイランの全国大学入学試験で8位となり、一流大学で化学工学を専攻。大学院は南カリフォルニア大学に狙いを定め、著名な化学者であるマーク・トンプソン教授と、世界初の人工網膜を開発した眼科・生命工学者のマーク・フマユン教授の研究室で共同研究に加わった。「自分なら、高分子化学と医用生体工学のギャップを埋められると説得しました」とバヤトは話す。
バヤトは、まさに成し遂げた。自身の化学工学の専門知識を使って、外傷を受けた眼を修復し、眼の治療に役立つ材料を開発した。体温と同じくらいの温度で粘着し、スーパーグルー(医療用強力接着剤)と同じくらいのきわめて高い接着力を持つ、ハイドロゲル(Hydrogel)と呼ばれる生体適合性ポリマーを開発したのだ。眼に外傷を負った場合、このポリマーを外傷部位に注入して素早く傷を密封することで、失明を防止できる。その後、病院で外科医は冷たい生理食塩水で密封剤のポリマーを洗い流して除去し、傷口を縫合できるのだ。さらに、彼女はこの材料を使って、緑内障の薬や抗生物質をコントロールしながら放出できるポリマーも設計した。
2016年、まだ博士号取得に向けて励んでいたころ、バヤトは開発した薬物送達物質を商品化するため、エスキュラテック(AesculaTech)を創業した。涙管に挿入して数カ月間にわたって薬剤を放出できるもので、患者が1日に何度も目薬を差す必要をなくせるかもしれない。エスキュラテックは、最初にドライアイを治療するポリマー・デバイスの承認を受けてから、薬剤を放出するポリマーの商品化を試みるつもりだ。彼女の最終的な目標は、緑内障の新たなより良い治療法を考え出すことだという。
(キャサリン・ブーザック)
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クレジット | Photograph by Eliza R. Grinnell |
著者 | MIT Technology Review編集部 [MIT Technology Review Editors] |