ラーダ・ボヤ博士の研究室の顕微鏡の下にある炭素の薄いシートには、真ん中を通る微細な溝が刻まれている。溝の深さは、水の分子1個分だ。「可能な限り、究極的に最も小さな流動性通路を作りたかったのです」と、ボヤ博士は説明する。ボヤ博士はそのために、想像もできないほど狭い毛細管を含む構造物を、確実に、繰り返して作るのに最も適した構成単位を見つけ出した。それがグラフェンだ。グラフェンは原子1個の厚みを持つ炭素原子のシート状物質である。
グラフェンのシート1枚の厚さは、たった0.3ナノメートルだ。ボヤ博士はシートを2枚、側面に隙間を残して、隣り合わせて配置する。そして、多数のグラフェンを積み重ねた層から構成される黒鉛の平板で、この隙間を両側から挟み込む。そうして出来上がるのが、黒鉛の塊を通り抜ける0.3ナノメートルの深さと100ナノメートルの幅を持つ通路だ。グラフェンのシートを追加することで、通路の深さは0.3ナノメートル単位で調整できる。
しかし、こんなに狭いところに何を収めるだろうか? 答えは水の分子だ。水の分子は幅0.3ナノメートルほどの大きさなので、圧力をかけないかぎり、この隙間を通り抜けられない。しかし、グラフェンを2層にして、隙間を0.6ナノメートルにすれば、水は毎秒1メートルの速度で通過する。「グラフェンの表面にはかすかな疎水性があるため、水の分子は壁にくっつくよりも、分子同士でくっつくのです」と、ボヤ博士は話す。それで液体は簡単に流れてゆける。
隙間の大きさは非常に均一なので、この隙間を使えば精密に調整されたろ過システムを構築できる。ボヤ博士は、この通路を使って、塩のイオンを水からろ過したり、大きくて揮発性のある有機化合物をより小さなガスの分子から隔離したりできることを実験した。大きさが均一なので、他の技術を使うより効率的にろ過できるのだ。
ボヤ博士は現在、英国にあるマンチェスター大学のグラフェン研究所で働いている。同研究所は、グラフェンの基礎研究の成果を産業化するために2015年に開設された、一枚岩の黒い厚板のような建物で、「グラフェンの故郷」と自身をブランド化している。ボヤ博士のオフィスが、グラフェンの発見でノーベル賞を受けたアンドレ・ガイム教授とコスチャ・ノボセロフ教授と同じ廊下に面していることを考えると、このブランディングは適当に思える。
(ジェイミー・コンドリフ)
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